ピザーラ・クアアイナカップ レポート&リザルト 文)金上 大輔 写真)杉 純太郎
11月14日、15日の二日間、津久井浜でピザーラクアアイナカップが開催された。この大会は毎年全国から多くの選手を集め日本のウインド界で最大といっても過言ではないイベントだ。今年は、過去最高のコンディションに恵まれ、素晴らしいレースが行われた。そして、結果はその場に居合わせた多くの人たちに、これから先のレースシーンを予感させたはずだ。
では、レースを振り返ってみよう。
初日、津久井浜がもっとも荒れる南西が吹き荒れ、アウトサイドには20m/sを超えようかというブローが入った。Z旗が掲揚されたのは、エキスパートクラスとオープンAクラス。ビーチスタートで3ジャイブ、ビーチフィニッシュのコースでスタートした。
エキスパートクラスは、多くのプロ選手を含め日本のトップレーサーが集い、吹き荒れる風は12月に行われる菊川のサーフスラロームの前哨戦としての見所も十分だった。しかし菊川の大会ほど強風に対する準備ができていない選手も見受けられ、多くの選手がオーバーセイルに苦しめられている様子だ。そんな中で浅野則夫選手の走りは、完全に次元が違っていた。スタートのフォーンが鳴った瞬間に独走態勢と言っても過言ではない走りで、この日行われた2レースの1回戦からファイナルまで彼に競りかける選手はいなかった。
同時に進行したオープンAクラスでひときわ目を引いたのは13歳の賀来健介選手。エキスパートクラスの選手でさえオーバーセイルでコントロールを失うことも少なくない中、スタートからスルスルと抜け出し安定感のある走りでトップフィニッシュを続け、2レースともファイナル進出。体力的にも相当きつかったはずだ。残念ながらファイナルではリズムを崩していたが、堂々の走りを見せてくれた。
エキスパートクラスレディスは4レースが行われ3レースでトップフィニッシュした土佐洋子選手が優勝。オープンAレディスは、過酷なコンディションにフィニッシュが一人というレースもあるほどで、2日間で行われた6レースの内、いくつのレースでフィニッシュすることができたのかが勝負の分かれ目となった。そんな中でも安定した走りを見せた高野智津子選手が優勝した。
初日は、あまりのハードコンディションであったために、オープンBクラスとビギナークラスのレースは見送られ、翌日に持ち越しとなった。そして、夜は恒例のパーティーが盛大に行われた。おいしい食事と豪華な賞品はもはや周知の事実。ウインドサーファーの胃袋を満たしてなお三崎の中トロが残っている光景はなかなかお目にかかれない。パーティに出ずしてピザーラは語れないのだ。
2日目。ややオフの西風が時折15m/s近くを記録するコンディション。オフがかったブローはガスティで道具のチョイスが難しそうだ。しかし、昨日何本かのマストを折ったダンパーのショアブレイクがすっかり陰を潜めたため、ここまでレースが行われていないオープンBクラスとビギナークラスからスタンバイがかかった。
オープンBクラスはやや短めのコース設定ながら海上スタート/海上フィニッシュで3ジャイブのコースレイアウト。男女とも続けて2レースを消化した。時折吹く激しいブローに翻弄され各ヒートとも多くのDNFが記録されていく。こんな状況の中でも目立ったのは10代の選手達。特にレディースの岩田七海選手は15歳の小柄な体で2レースともトップフィニッシュ。しかも第2レースではフィニッシュしたのは彼女1人だけと他を寄せ付けない強さで優勝を決めた。メンズは前日のパーティーに学生服を着て参加した17歳の高津一晃選手が、手堅くまとめ優勝。パーティーに続きレースでも主役の座を勝ち取った。
同時にインサイドで行われたビギナークラスは、7歳の小学1年生、杉匠真選手が優勝した。ビギナークラスとはいえビーチスタートして沖のマークを回航し、フィニッシュラインを通過するのである。小学1年生なら完走するだけで賞賛されたはず。しかし彼は多くの大人を後ろに従えて真っ先にフィニッシュラインを走りぬけてみせた。レディスクラスも優勝は11歳の土屋姫乃選手。キッズのレースで圧倒的な強さを見せる彼女が大人に混じっても通用する実力を証明してくれた。
さて、参加者は少なかったがレースだけでなくフリースタイルも面白いコンディションの中ハイレベルな戦いを繰り広げた。地元ショアラインの梅川努選手と、毎年フリースタイルクラスに選手を送り込んでくるウインズ171の山本卓史選手が同点となる接戦となるが、2日目のコンテストを制した梅川選手が優勝となった。
初日に引き続き行われたオープンAクラスの第3レースは、前日もいい走りを見せていた賀来選手が制し優勝を決めた。それは運とか偶然ではなく、勝つべくして勝ったと断言できる。走りも、ジャイブも、スタートも優勝にふさわしいものだった。
徐々に風が不安定になる中、コースを沖に移し行われたエキスパートクラスは、ファイナルを残して風が落ち終了となった。この結果、メンズクラスは浅野則夫選手が他を寄せ付けずに優勝。2日目にレースが成立しなかったレディースクラスは土佐洋子選手が優勝となった。
こうしてこの大会のすべてのクラスで優勝者が決定。レースの男女全8クラスのうち5クラスで、ジュニア選手権などで活躍する選手が優勝するという結果になった。これまでも、微風のビギナークラスで体重の軽いジュニアの選手が活躍することはあった。しかしこの大会は、十分過ぎるほど吹いていた。そしてその中で、小学生や中学生が真っ向から大人を退けたのだ。もしかしたら数年後のレースリザルトを見て、この大会がターニングポイントだったと振り返ることになるのかもしれない。