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  • 名越純子通信

第1回「激戦のカナリーツアーを振り返って」

名越純子は日本人で唯一、ワールドカップという“世界最高峰のタフな舞台”で活躍している選手だ。
まさに野球におけるイチローやW松井と同じ「世界標準」のウインド界では極めて貴重な存在だ。
このコーナーはその彼女の肉声と、リアルな世界最高峰の現状を不定期ながらお届けしていくもの。
第1回目は激戦のカナリーツアーを振り返ってもらった。

一番不向きなフリスタ中心の参戦も関わらず年間ランク3位は上出来

 今年は世界恐慌の影響で直前まで種目が決まらなかったり、省かれたりと、経費削減のしわ寄せが至る所に現われました。去年まで行われていたポッゾでのフリースタイルとフエルテベンチュラのスラロームは女子だけキャンセルされることになりました。そんな中、私はランザローテにてフリースタイル、ポッゾでウェイブ、フエルテベンチュラにてフリースタイルに参加してきました。

 今年感じた事は各種目のレベルがさらに上がり、ひとつの種目に絞って、または何かひとつのランクアップだけを狙ってツアーに挑む選手が増えたように思います。2種目も3種目も同じようにトレーニングしていては「二兎を追う者は一兎をも得ず」ではないですが、1種目だけ集中してトレーニングする選手達に追いつけないレベルまできていると思います。少し前まではオールラウンダーと呼ばれる比較的器用な選手が上位を独占していましたが、今はそれが難しくなっていると言えるでしょう。
私も昨年はウェイブ、フリースタイルを全戦、スラロームにも一部参加していたのですが、今年はフリースタイルを中心に戦う事にしてきました。
理由はウェイブの大会がポートタックの場所でしかない事で、それでも今まではそこそこの成績は収めてきたものの、ポートタックのみ練習しているほとんどの選手と張り合うには、マウイ(99%がスターボードタック)に身を置く自分には、あまりにも無理があるように思えたからです。
フリースタイルは正直に言うと3種目の中で自分には一番向いてないのですが、とにかく風さえあればトレーニングできる種目なので、自分の置かれた環境を考えれば一番フェアに戦えるのではないかと思い、今年はフリースタイルに取り組みました。
また総合的なウインド能力を考えたところ、この種目が一番、効率的に向上していけるのではないかと考えました。もちろん波のある時はほとんどウェイブをやっているのですがフラットな時はひたすらフリースタイルに時間をかけて練習しました。
今年の目標はもちろんランクアップもありますが、昨年ヒート中にできたりできなかったりしたプネタを100%決めることでした。ポッゾのフリースタイルが一番得意なコンディションで好成績を収めるチャンスを狙っていたのですが、今年はキャンセルされたことでモチベーションが一時下がってしまっていましたが、ほか2つの大会は成立し、結果からいうと目標は達成した事になりました。プネタだけではなく、ヒート中に出す技の成功率がぐっと上がったため、ランザローテでは3回もダブルイリミネーションが成立したのに2位と好結果。フエルテでは1回のダブルのみで風がなく、6位と挽回するチャンスがないまま終わってしまいましたが、オーバーオール年間ランキングで3位となりました。
自分が一番苦手としていたフリースタイルで、しかも年間ランキングのトロフィーをもらう事になるなんて、5年前ツアーを始めたときは思ってもみなかったことで、正直大変うれしかったです。

メンズのポディアム(年間チャンプ)争いは大激戦

ウイメンズのサラキタ・オフリンガ同様、メンズでもゴリートが頭ひとつ飛び出ていて無敵ですが、ポディアム争いは大激戦です。
マルシリオ(ブラウジーニョ)・ブラウン、キリ・ソード、トンキー・フランス、アンチョン・オタエグイー、タティー・フランスなどそれぞれ個性的なスタイルを持った選手が常にポディアムのドアをたたいています。
印象的だったのはトンキーがボンカ、フラカシャカ(クマ)、クマフラカなど、いくつもの新しい技を出してきた事、そして台風の目となったベルギーのスティーブン・バン・ブロックホゥヴェン選手。彼は今年EFPT(ヨーロピアンフリースタイルツアー)にて全戦負け無しのスーパールーキーです。スタイル的にはトンキー・フランスをパワフルにした感じで、もっと滞空時間も増しているように見えます。彼はセイルトリムがズバ抜けて上手いなと感じる選手です。
ランザローテでいきなりビッグネームを倒し続けて6位入賞。これはビギナーズラックでもなんでもなく、次のフエルテヴェチュラでは4位とツアー1年目にして確実にポディアムを狙える位置にいます。

私のようなウェイブ系選手が通用しているのも場数を踏んでいるので失敗が少ないから

女子も年々レベルは上がっていて、5年前は例えばフラカは女子のなかでできる選手が1、2人で高得点技だったのですが、今では参加者全員が普通にメイクしていて、高得点でもなんでもなくなっています。ビリの女の子でもスイッチスタンス技をメイクするようになっているくらいです。ローラ・トレボー、サラキタ・オフリンガ、ヨリ・デ・ブレンド、オルヤ・ラスキーナ他半数以上がフリースタイルスペシャリストと呼ばれる選手で、ウェイブを掛け持ちする選手はなかなか技の難易度の点で苦戦を強いられています。ですが、それでもダイダ・モレノ、イバヤ・モレノ、私、ナイラ・オロンゾがフリースタイルでもそこそこ通用しているのは、ウェイブの場数を踏んでいるだけヒート中に失敗する率が少ない上、バリエーションが多いからではないかと思われます。
例えばスイッチチャチョやシャカができるからといって、それが一日中やって何回かできるではなく、毎ヒート中にできるのか否かだということがキーです。実は私達女子の場合、その完成度を高めるのがフリースタイルでは一番難しいところで、これがなかなかPWAを続ける競技人数が増えない原因にもなっているようです。その証拠に去年まで参戦していたレギュラーの選手でも、新しい技の完成度をあげるのに時間がかかり、なかなかトップ8に食い込む事ができず、あきらめてしまった選手がたくさんいます。
逆に言えば確実にできそうな技をしっかりと煮詰めていく練習をすれば、ランク外からでも上位に食い込む可能性はあると私は考えています。
私はこの冬も今まで通りのトレーニングをする予定です。多くの高難易度の技に手を付けるよりは、来年確実にヒート中にできるようになる技を練習していこうと思っています。その積み重ねでいずれは高難易度の技のバリエーションが増えるのではないかと企んでおります。

名越純子 J11

  • 身長: 172 cm
  • 体重: 62 kg
  • 年齢: 34
  • 居住国: アメリカ ハワイ
  • PWAデビュー: 2005年
  • ウインドをはじめた年:1996年

主な戦歴:
Ranked joint 3rd PWA World Tour Freestyle 2009
Ranked 4th PWA World Tour Wave 2008
Ranked 4th PWA World Tour Wave 2007
PWA Rookie of the year 2005

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Tabou Boards, CarvyWetsuits

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